するすると言葉が
大通りから薄暗い脇道に入って、先を急ぐ。
ほどなく、仄かな灯りを認めて息をつく。
温かい灯りに招かれ、引き戸に手を掛けた。
ある紅茶専門店で行われている「夜喫茶」に行ってきた。閉店後の店内で紅茶をいただきながら、詩や絵本を楽しむというもの。
詩や絵本に造詣の深い店主さんお勧めの作品を読む。
その日は、きのゆりさんの詩集を出していただいた。なんとなく覚えのある名前と表紙のイラスト。
そうだ、私の家にもきのゆりさんの詩集が何冊もあった。
少女時代に読んだ、きのゆりさんの詩。「あの人はいつも深爪」「髪を切った少女がいます」…本を開いたら、そうしたフレーズがするすると出てきた。
その頃の自分を思い出すのではなく、ただ言葉が出てくる。
お名前すら思い出さずにいたけれど、きのゆりさんの詩は自分の中にちゃんと留まっていたのだな。忘れていた言葉、過ぎ去ったと思っていた時間。本当は言葉も時間も降り積もっていて、どこかにしまわれていただけ。
優しく香る紅茶をいただきながら、店主さんと詩を読み合った。密やかなこの時間も、交わした言葉も私の中に降り積もっていく。